Last Updated : 29th.May.2002


小笠原・父島移動運用記
余談〜なんで小笠原まで行って無線するの?)

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なんでわざわざ小笠原まで行って無線を?」と言う疑問、アマチュア無線をやっていない人には当然ですよね。私も実は、往路の船中や現地で何度も聞かれましたし、小笠原に限らず、グアムやパラオまで無線をしに出かけていく人たちも多数居ますし、私もそういう人間が集まったクラブ PIRC ってところの会員です。

この「小笠原・父島移動運用記」と言うコンテンツは、アマチュア無線(それも衛星通信と言うごくマイナーなジャンル)を趣味にしている人向けに編集しているんですが、検索エンジンなどで「小笠原」をキーワードにしてここにたどり着いてしまった非アマチュア無線家の方たちもいらっしゃると思いますので、ごく簡単に、無線機を抱えてまで僻地に行く人間の心理を説明したいと思います (^ ^)。

1.アマチュア無線と言う趣味

アマチュア無線ってのは、無線機やらアンテナやらを自分で作って楽しむという技術的な趣味であると同時に、世界中の人たちと話をすることを楽しむと言う文化的な趣味でもありす。無論、皆が外国語をペラペラとしべれる訳でもなく、世界中ではなくて「日本中」って言い換えてる人のほうが多数派ではありますけど、まあ、カタコトの外国語を操って、国際親善に努めている人たちも少なくないんですよ。ただし、話といっても、その内容は挨拶程度しかしないのが普通で、話しの内容よりも、話をした「交信をした」って事自体を楽しむってのが、普通の感覚なんです。で、まあ、そういう同好者が集まれば、自然と「どれだけたくさん交信しているか」が話題になりますし、その成果がアマチュア無線の世界での、その人のステータスになる訳です。

ただ、交信した局数だけではあまり指標として役に立たないんですよ。日本人同士で100交信することと、100カ国の相手と1交信ずつするのでは、性質が全く違いますから。で、「世界中の人と話が…」と言うお題目 (^ ^;) からすると、局数よりもむしろ、どれだけ多彩な地域と交信することができたか、という方が重視される傾向があります。アマチュア無線の世界では、交信の「証」として QSL カードと言う、一種のハガキを互いに交換する習慣もありますから、どれだけ多数の地域のカードを持っているかが、その証明になります。ま、旅行先でスタンプやらペナントやら駅弁の紙やら、そういうのを集めるのと、感覚は一緒ですね。

グアムもハワイもみんなアメリカ!で、対象となる「地域」を考える場合、一番わかりやすいのは「国」を単位とすることです。イギリスと交信した、アメリカと交信した、って言い方になりますね。でも、日本とかアジア各国みたいに、ある「国」の範囲がさほど広くない場合はそれでもいいのですが、欧米諸国だとちょっと都合が悪いのです。例えばグアム島、これはアメリカ領なので、グアム島のアマチュア局と交信したことを「アメリカと交信した」と言うのは間違ってはいません。が、太平洋の西の端にあるグアム島と、太平洋の東端にあるアメリカ本土を「ひとつの地域」と考えるのは無理がありますよね?。過去の植民地支配の歴史もあって、世界各地には欧米諸国の「海外領土」が多数ありますから、南太平洋のニューカレドニア島がフランスの海外県だから「フランスと交信した」と言うのは無理があるし、大西洋の南の果てにあるフォークランド島が英領だからと「イギリスと交信した」と言うのは無理がある訳です。海外旅行でもそうですよね、香港へ旅行したからと言って「中国へ行った(イギリスへ行った)」と言うのは不自然ですから。こんな極端な例でなくても、アメリカだってアラスカやハワイと本土は離れているし、離れてなくてもロシアみたいに東西に広い国もあります。また、地理的でなくても、中国本土と台湾は2地域だけど1国として扱われていますし、キューバ島内の米軍基地はキューバなのか?、って問題も出てきます。

じゃあ「国よりもっと小さい範囲、州とか県とか」って考えもある訳ですが、国ごとに行政システムは違う訳で簡単には行きません。例えば、人口わずか2万人の島国であるパラオ共和国にも16もの州があるのに、隣のミクロネシア連邦共和国は、人口は1桁多いのに4州しかありません。また、州・省・県などで細分化してしまうと数が多くなりすぎます。世界中と交信する!、と言う目標を達成するのに、その対象が数千・数万もあったのでは、やる気がなえちゃいますよね。

そこで、アマチュア無線の世界では、現実の感覚にあわせるために、「地域」の考え方として「エンティティ」という、特別な考え方をするんです。まあ、細かなルールがあるものの考え方は簡単で、(1) 「国」が違えば別地域、(2) 独立国でなくても国の体裁を整えているなら別地域、(3) 本国から離れている場所は別地域、として考えます。一般的な「国や地域」の考え方に、無線通信の技術的特性から別地域として考えるべき場所を追加するんです。例えばアメリカなら、本土、アラスカ、ハワイ、グアム、サモア…、それぞれ別地域として考えるってことですね。で、アメリカのアマチュア無線家の団体 American Amateur Relay League (ARRL) ってところが発行している DXCC というアワード(賞)が、賞の申請に必要な「地域」のルールを明確に定めていて、このルールが一般的な常識として扱われているのが実情なんです。歴史的な変動を経て、現在は約 300 のエンティティがあります。

2.日本には3つの「地域」がある

日本は3エンティティで、ようやく「小笠原」の話になる訳ですが、この DXCC のルールに照らすと、日本は3つのエンティティに分割されるんです。北海道から沖縄までの「日本本土」が1つ、そしてそこから地理的に離れている小笠原諸島と火山列島(硫黄島あたり)で1つ、更に南鳥島で1つ、です。ですから、「今まで交信したところは?」と言う問いに対して「アメリカに日本にロシアに中国に…」と言う言い方をする際、小笠原諸島との交信は「日本との交信」ではなく「小笠原との交信」として扱われる訳なんです。

無論、「日本」には沢山のアマチュア無線局が居ますから、さほど無理をしなくても交信できるでしょう。が、人口数千人の小笠原諸島には、数えるほどしかアマチュア無線家はいません。小笠原と交信したい人は多数居るのに、肝心の小笠原からは滅多にアマチュア無線の運用がなく、あってもなかなか自分と交信するチャンスが無い…。こういう場合、小笠原のアマチュア局は「珍局」と認識され、一旦出ると多数の局から「呼ばれまくる」ことになります。

そうそう、アマチュア無線では局を識別するのに、運用者の名前ではなく、無線局の免許に記載された呼び出し符号、俗に「コールサイン」と言うものを使用します。で、このコールサインは英字と数字の組み合わせなのですが、最初の2〜3文字で「どこの国・地域の局」なのかわかるようにしてあるんです。例えば、私のコールサインは JF6BCC ですが、JF は日本、次の数字 6 は九州を表すので、コールサインの6字を聞いただけで、日本の九州から出ている局だと言うことがわかるんです。無論、このあたりは国ごとにルールが違うので、全てを理解するのは至難の業なんですが、アマチュア無線人口が多い国ってのはさほど無いので、実質的には全て理解しなくても何とかなるものです (^ ^;)。※コールサインについてもっと詳しくはこちら

JA〜JS, 7J〜7N, 8J〜8N 日本
W, K, N, AA〜AL アメリカ

で、小笠原のアマチュア無線局は、先頭に(あるいは末尾の移動先表示に) JD1 と言う文字列を使うルールで、コールサインを聞いただけで小笠原からの運用だってことがわかるんです。私は今回、自宅で受けている免許の JF6BCC を使い、その移動運用先を小笠原にしましたので、JF6BCC/JD1 というコールサインを使いました。'/' はスラッシュとかストロークとか発音するべき文字なのですが、"移動"という意味でポータブルと読むのが一般的になってますね。

3.「呼ばれたい」と言う欲求

さて、前述の通り、アマチュア無線人口の少ない地域の局は、そこと交信したい局が沢山いるので、一旦電波を出すと沢山の局から呼ばれます。これを俗に「モテる」と言います (^ ^;)。逆にいえば、アマチュア無線人口の多い地域に居る局は「モテない」、CQCQ…と声を出して「誰か応答してよ」と言っても、なかなか応答してもらえなくなる訳です。では呼ぶほうに回ればいいのか、と言うと、そうでもありません。珍しい地域から1局が出たとわかれば、たちまちのうちに数十、ヘタをすると数百の局が、その局と交信しようと「呼び」に回るんですから…。そうなると、設備が強力で自分の電波を強く飛ばせる局から順番、と言うことになって、自動車につけたホイップアンテナや、マンションのベランダから突き出した釣竿アンテナのような「貧弱」な設備の局は、なかなか自分の順番が来なくてイライラすることになります。ストレスがたまるんですよ。無論、相手だって無限の余暇時間がある訳じゃなく、待ってるうちに出てこなくなるかも知れませんからね。日本やアメリカ、ドイツやイタリア・ロシアなど、アマチュア無線人口の多い地域のアマチュア無線家達は、こういうストレスと戦うことになるのです。

ストレスを軽減するための解決策は、おおまかに言って5つあります。(1) 一発で相手に取って貰えるような強力な電波を出す (2) 他人が気づかないうちに珍しい相手との交信を済ませるよう、常に受信し続ける (3) アマチュア無線をやめる (^ ^;)、(4) 海外と交信するとは忘れる、そして (5) 自分が呼ばれる立場になることを画策する、です。日本の住宅事情と法律の規制から (1) は困難で、それが実現できる人はそう多くありません。(2) も四六時中そんなことができる訳はないです。(3)(4) は論外、いや、そうやってやめていった人も少なくないんですが、それができるなら苦労は無いんです。

残ったのは (5)、つまり、呼ばれる立場になることです。呼ばれるためには「珍しい」局に変身しなくてはなりません。珍しい局になるには…そう、珍しいと扱われる地域に行って、そこで無線をすればいいのです。これが、わざわざ無線機を抱えて僻地に行くアマチュア無線家の心理の基本です。

つまり、無線機を抱えて小笠原に行けば、世界中から呼ばれるんですよ。

もちろん、行き先は何も船で25時間以上かかる小笠原でなくても良く、現地でアマチュア無線を運用するための免許さえ取れるなら、ジェット旅客機でいける近隣の外国の方が手軽で、特に近年、日本の免許でそのままアメリカ国内で運用できるようになってからは、グアムやサイパンにでかけて現地で無線をする日本人アマチュア無線家が増えました。私も過去に何度も行きましたし、それが嵩じてパラオ共和国に2年近く住んでたりもしました (^ ^;)。

ただ、そうやって沢山の「外国人局」が、入れ替わりながらも頻繁に出るようになると、珍しさもだんだんと薄れ、あまり呼ばれなくなってしまいます。そうなれば、もっと僻地に出かけていきたくなる訳です。都会のグアムやサイパンから、田舎のパラオやポンペイへ、あるいはもっと僻地の東マレーシアやマカオへ…。そういう流れの先に、日本国内でありながら(免許の問題が無いにも関わらず)船でしかいけないため運用者が少ない「小笠原」もある訳です。

無論、珍しさの点ではもっと他にも候補があります。小笠原とはまた別の地域として扱われる「南鳥島」もそう。でも、ここは観光地ではなく、気象観測所と海上保安庁の施設があるだけで、民間人は普通は立ち入れません。あるいは朝鮮民主主義人民共和国 (北朝鮮・アマチュア無線界ではコールサインに使われる国籍を表す文字の P5 で通じる)なんて、国情からアマチュア無線の運用は過去に殆どありませんでしたから、もし電波を出せれば、世界中からとんでもない歓迎を受けるのは確実…でも、現時点では望み薄ですよね。国際政治にも国際貿易にも無関係な仕事をしているサラリーマン無線家には、おのずと行き先には限界があるのです。

…わかっていただけました?

以上、なぜ無線機を抱えて小笠原に行くアマチュア無線家がいるのか、についての説明でした。無論、無線だけをしに行く人ばかりでなく、ホエールウォッチやダイビングが主目的だけど、夜の楽しみとして無線機も持っていく、って人も少なくありませんので、無線家の皆が皆、こんなディープな人たちだなんて思わないで下さいね。

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